雨がよく降る。このままこの店が誰にも見えなかったらどうしよう。と不安になる。途方もないこれからのことが、曇天の空模様と重なる。
ふと厨房を見ると、
スコーン娘。いや、看板娘。いそいそとスコーンを切り分けてる。昨日包丁を研いだから、どうだい切れ具合はと聞いてる。
「切れやすくなったと言われれば、そうかもしらん。」
その程度かい。でも切れすぎても具合が悪い。もう少しずつ研いでみる。ほら、そうこうしながら動きはじめる。
焼けているスコーン。看板娘に見入られれば、見入られるほど、膨らみは増しているんじゃないですか。一番右のプレーンなんか、規格外や。
商売に暗さは禁物だという。明るく明るくと。それでも皆頭を抱えないわけじゃない。頭を抱えた分だけ、それが明日につながっていく。だから賛美や中傷を、ポケットにしっかり詰め込んでいるんだ。
「ミニチーズケーキ、そろそろ足りひんよ。」
はい。うだうだ言わずに作ります。
焼き上がりが楽しみや。ほら、そうこうしてると楽しみができた。