朝、頭がぼーっとしていた。決断しなければならないことについて、考え過ぎていた。考え過ぎていたとしても、窮地に立たされて初めて覚悟ができるような人間だから、仕方ない。
それでも店をやる手は、勝手に動いた。仕込みが勝手に進んでいく。ふと「誰が仕込んだんだろう」と思ってしまえるまでに、体が朝の店の準備や仕込みを覚えている。
夜の片付けも。どんだけ喧嘩して心が凍りそうになっても、どんだけ落ち込んで泣きそうでも、手は片付けることを覚えていて勝手に動く。食材をまとめ、豆をととのえ、シンクを磨き、コンロを磨き、グリストラップを掃除する。それは正確に。動き出したら止まらないから、なんだかまた悲しくもなる。
僕は人間だけど動物のようで、理不尽なことがあるとそれをなんとかやり過ごしていこうとするけど、鵜呑みにできるほど動物でもない。わけがわからないところでいきり立ったりして、辺りをより暗く青くしてゆくのだけれど、その憤りの理由がわかるのはずっと先のことだったりもする。迷惑をかけているのはわかるんだけど、それもこれもあれもどれも一緒に運べるほど器用ではない。
時々僕より魂が先にいっているときがある。この店は僕らの分身のようなもので、ずっとずっと心に宿っていたものだった。