毎日看板娘は笑ってくれる。すごい人だな、とそばにいながら思う。動くことを嫌がらない。手間を嫌がらない。店が、「いつも通り」で在るために、彼女は冷静に、平等に、笑いかけとる。
つい昨日、また僕が爺ちゃんと大げんかした。僕は爺ちゃんが言うような、80歳までの収支計画を立てて実行するような、そんな出来た人間にはなれないし、なりたくない。じめじめお金の話ばかりする彼に、電話口で怒りが沸騰して電話を切って、爺ちゃんが差し入れてくれた寿司を撒き散らしてやった。しまった、と思った時には襖にシャリがついとった。あー、「やってもた。晩飯無くなってもた。ごめん。粗末にしてごめん。」って看板娘に言ったら、
「マグロ、背中に乗ってるで。」
って。奇跡的に背中にマグロ乗ってたんやけど、それを二人で笑えることに、なんか救われた。看板娘はそれが食べれるかどうかを考えてたらしい。
僕は、毎日笑えたらな、と思うけど、そうもいかない時があって。やっぱりこの仕事がほんまに好きやから。矛盾がすごいから。
ナポリタンとかタマゴサンドとか注文が入って、こうしたらもっと味が深くなるんちゃうか、とか考えると、また作りたくなる。珈琲いれとるときが一番落ち着く。挽き目をもう少し細かくした方が美味しいかも、とか思うとやらずにいれん。
この仕事をバカにされると腹がたつけど、この仕事、素敵な仕事やで。爺ちゃん。